少子高齢化の影響などにより、留置所内での高齢者割合が年々増加しています。
法務省が発行した「平成30年度版 犯罪白書」を元に確認してみますと、
「刑法犯 検挙人員(年齢層別)・高齢者率の推移」より一部抜粋し、見やすいように加工した以下のデータの通り、高齢者の検挙数と全体に占める割合が年々高くなっています。
年次 | 総数 | 65歳未満 | 65歳以上 | 高齢者率 |
平成10年 | 310,524 | 310,524 | 13,739 | 4.2% |
平成11年 | 299,199 | 299,199 | 16,156 | 5.1% |
平成12年 | 291,707 | 291,707 | 17,942 | 5.8% |
平成13年 | 305,179 | 305,179 | 20,113 | 6.2% |
平成14年 | 323,633 | 323,633 | 24,247 | 7.0% |
平成15年 | 350,106 | 350,106 | 29,804 | 7.8% |
平成16年 | 352,595 | 352,595 | 36,702 | 9.4% |
平成17年 | 345,122 | 345,122 | 42,112 | 10.9% |
平成18年 | 337,979 | 337,979 | 46,651 | 12.1% |
平成19年 | 317,397 | 317,397 | 48,605 | 13.3% |
平成20年 | 291,295 | 291,295 | 48,805 | 14.4% |
平成21年 | 285,086 | 285,086 | 48,119 | 14.4% |
平成22年 | 274,794 | 274,794 | 48,162 | 14.9% |
平成23年 | 257,314 | 257,314 | 48,637 | 15.9% |
平成24年 | 238,827 | 238,827 | 48,559 | 16.9% |
平成25年 | 216,580 | 216,580 | 46,243 | 17.6% |
平成26年 | 204,353 | 204,353 | 47,252 | 18.8% |
平成27年 | 191,723 | 191,723 | 47,632 | 19.9% |
平成28年 | 179,399 | 179,399 | 46,977 | 20.8% |
平成29年 | 168,739 | 168,739 | 46,264 | 21.5% |
平成10年から平成29年の20年間で、高齢者(65歳以上)の検挙数は13,739人から46,264人へと3.3倍増えており、検挙割合は4.2%から21.5%へ大幅増加しています。
平成29年では、5人に1人が高齢者ということになり、今後ますます高齢者割合が増加すると予想されています。
実際に留置所を体験された方へヒアリングを行いましても、実社会と同じく高齢者の方が多数おられたと聞いております。
高齢者でも警察に捕まると、「逃亡の恐れ」「証拠隠滅の恐れ」が認定されると、逮捕・拘束され留置所で生活を送り取り調べを受けることとなります。
中には認知症を患っていたり、足腰や排せつなどが不自由であったりと、介護が必要な方も留置所で生活を送る場合があります。
介護が必要な方へは、留置担当官が必要に応じて介護を担当し、トイレも和式ではなく様式が設置されている居室への変更を行ったり、紙おむつの提供を行ったりしています。
留置所内では、部外者の出入りを厳しく制限しているため、頻繁に専門知識のある介護士を入れるわけにはいきません。
多くの留置所では、留置担当官が高齢者や障がい者の介護を、普段の監視の仕事と並行して行うこととなります。
このような昨今の状況に応じ、留置所としても高齢者への対応が必須となり、留置担当官の負担が大きくなりました。
留置所から検察や裁判所へ送致される場合にも、単独での移送や車いすでの移動をサポートしたりと、対応が必要となります。
また、病状の悪化や突然具合が悪くなった時には、病院を手配したり、留置所内では病院等から出された処方薬をしっかり管理し、医師の指示に従い薬を飲ませる等の対応もされています。
食事も通常のものを細かくし、のどに詰まらせないように工夫されたものが提供されることもあります。
通常の介護施設でも入浴が大変と聞きますが、留置所では専用の入浴施設がないために、複数の留置担当官が協力し、サポートされています。
一定程度体調が悪かったり、病気の高齢者は、「逃亡の恐れ」や「証拠隠滅の恐れ」による勾留が認められないケースもあり、体調を考慮しての任意での取り調べが行われたり、在宅起訴をされたりすることもあります。
留置所は刑務所や拘置所とは異なり、起訴前の取り調べで、「逃亡の恐れ」や「証拠隠滅の恐れ」を防ぐために身柄を拘束することに特化した施設で、多くの警察署では設立時に高齢者や障がい者を収容することを想定していない場合が多く、全体的なバリアフリー化がなかなか進んでいません。
新設された警察署や改築される警察署では、留置施設にもバリアフリー化を徐々に進めている最中です。
人件費や建設費の高騰、テロ等の凶悪事件への対応など、様々な要因で完全なバリアフリー化が早期に実現することは難しいようで、現状では、留置所での担当官が被疑者の監視と介護を同時に、限られた人員で対応するしかない状況です。
まだまだ完全ではありませんが、最低限度の高齢者対応はされています。
- 洋式トイレの優先的割り当て
- 紙おむつの提供
- 砕くなどして食べやすくした食事の提供
- 移動時の介助
- 風呂の介助
- 徐々に進めているバリアフリー化
- その他必要最低限の介護
また、差し入れ品としての介護用品「紙おむつ」や「高齢者用の食事」、「介護衣類」や「介護グッズ」の差し入れは現状では許可されていません。
警察の負担を軽減するためにも、高齢者向けの差し入れ規則の一部ルールを緩和していただければ、介護用品等の備品購入費の経費削減にもつながりますので、ぜひご検討いただきたいと考えております。