これまで刑事事件とは無縁だった方にとって、有罪判決による影響は大きな不安の種となるかもしれません。とくに「資格はどうなるのか?」という疑問は多くの方が抱える重要なテーマです。この記事では、有罪判決を受けた際に国家資格にどのような影響が出るのかを、わかりやすく解説します。
有罪判決と「国家資格」の関係とは?
有罪判決を受けた場合、取得済みまたは取得予定だった国家資格への影響が出ることがあります。ですが、そのすべてに影響があるわけではなく、「どの資格か」「どのような判決か」によって違いがあります。刑の内容が軽微であれば、ほとんどの資格は失われないことが多いです。
資格を失うかどうかは“判決の内容”次第
資格喪失に関係するのは「懲役」や「禁錮」といった実刑判決です。例えば、執行猶予付きの判決では欠格に該当しない資格も多く、即座に資格を失うとは限りません。一方で、実刑判決(懲役・禁錮など)を受けると、多くの国家資格では欠格事由に該当し、資格を失う可能性があります。
「欠格事由」とは何か?制度の基本を理解しよう
欠格事由とは、「この条件に該当する人は資格を持てません」と法律で定められているものです。有罪判決を受けた人がこれに該当する場合、資格の新規取得や更新ができない、または現在保持している資格が失効することになります。
前科と前歴の違いと、資格への影響
「前科」は、有罪が確定した経歴。「前歴」は、逮捕や取り調べを受けた経歴であり、有罪でなくても記録されます。国家資格に影響があるのは基本的に「前科」であり、前歴が資格制限の原因になることは通常ありません。
また、前科には一定の期間が経過することで制限が解除される「消滅」という制度があります。
「逮捕された=資格喪失」ではありません
誤解しやすいのが「逮捕されたら資格がなくなる」という考え方です。逮捕や勾留の段階では「前科」はつかず、有罪判決が確定して初めて資格への影響が生じます。逮捕された時点では資格を維持している状態であり、手続きが進行する中でどうなるかが決まっていきます。
資格に影響が出る具体例(主要な国家資格)
以下の国家資格では、有罪判決によって資格の取得や維持に制限が加わることがあります。
- 弁護士:禁錮以上の刑に処された場合、弁護士法により登録拒否や登録取消の対象になります。
※根拠法:弁護士法第7条 - 医師・看護師:業務に密接に関わる違法行為(傷害・薬物関連など)で有罪となると、医道審議会で免許取消や停止となる可能性があります。
※根拠法:医師法第4条、保健師助産師看護師法第9条 - 公認会計士・税理士:一定の刑罰を受けると欠格事由に該当し、資格の取得や登録が不可能になります。
※根拠法:公認会計士法第4条、税理士法第4条 - 司法書士・行政書士:禁錮以上の刑に処された者は、資格取得・登録不可となります。
※根拠法:司法書士法第5条、行政書士法第2条の2 - 建築士・宅地建物取引士:懲役や禁錮などの実刑を受けると、一定期間資格を失うか取得不可になります。
※建築士:禁錮以上の刑を受けた場合、刑の執行終了から2年間は登録不可
※宅建士:禁錮以上の刑を受けた場合、執行終了から5年間は欠格
※根拠法:建築士法第7条、宅地建物取引業法第5条 - 教員(公立学校):禁錮以上の刑を受けた場合、教育委員会の判断で教員免許が失効または取消になることがあります。
※根拠法:教育職員免許法第十条 - 保育士:児童に対する犯罪や禁錮以上の刑により、資格停止や取消の対象となります。
※根拠法:児童福祉法第十八条の五 - 介護福祉士・社会福祉士:禁錮以上の刑により登録が拒否・取消されることがあります。
※根拠法:社会福祉士及び介護福祉士法第四十八条の四、社会福祉士及び介護福祉士法第三十二条、社会福祉士及び介護福祉士法第三条
なお、資格に影響が出る国家資格はここで紹介したものに限られず、他にも多数存在します。気になる資格がある場合は、必ず個別の資格法や関連規定を確認するようにしてください。
有罪判決の影響を受けにくい資格とは?
一部の資格は、有罪判決の影響を受けにくい、あるいは影響を受けない場合があります。これは、当該資格に関する法律に欠格事由が定められていない、または欠格要件が限定されている場合に当たります。
- 民間資格:簿記、TOEIC、MOSなどは民間団体が発行しており、刑罰歴に基づく制限が設けられていないものが多いです。
- 一部の地方資格・技能資格:調理師や美容師など、自治体により資格制度が運用されている場合は、欠格事由がないか緩やかな場合があります。
- その他の国家資格:中小企業診断士や気象予報士など、一部の国家資格では欠格事由がない、または限定的であり、有罪判決の影響が出にくいケースもあります。
ただし、これらの資格であっても、登録機関や雇用者側の判断、社会的信用の観点から制限を受ける可能性もあるため、「まったく影響がない」とは言い切れません。あくまで「影響が少ない傾向がある資格」として理解してください。

資格を守るために今すぐできること
- 弁護士への相談
- まずは信頼できる弁護士に相談することが大切です。早期の対応が資格の維持に繋がるケースもあります。
- 示談の重要性
- 被害者のいる事件では、示談成立が起訴猶予や執行猶予に影響し、資格喪失のリスクを下げる可能性があります。
- 犯罪をしない意識と生活態度の見直し
- まず何よりも「犯罪をしない」という意識が大切です。再犯のリスクを減らすためにも、生活環境や人間関係、日常の行動を見つめ直し、更生に向けた姿勢を持つことが重要です。
前科がついた後の「復権」はできる?
一定期間が経過した場合や、恩赦・復権の制度を利用することで、再び資格取得の道が開ける場合があります。ただし、すべての資格に該当するわけではなく、事前に確認が必要です。
資格を守るには、正しい知識と早めの対応を
資格の制限は決してすぐに確定するものではありません。「逮捕されたからもう終わり」と思い込まず、正しい情報を元に適切に対応することが大切です。
逮捕された場合に資格への影響が不安なときは、早めに専門家や弁護士、支援サービスに相談してください。「さしいれや」では、留置場や拘置所、刑務所へ資格取得のための書籍の差し入れ等でサポートいたします。
